東京で過ごした十年、全てが中途半端で何の成果もなく姫路に帰って来たので、もう東京のことは忘れようと思っていました。只、『名倉加代子』という偉大な先生にめぐり合いレッスンを受けられた事が、東京での唯一つの誇りとして胸の奥にしまい込んでいました。
二年前、震災の直前に亡くなった小林アトム君の葬儀に先生が来られていました。先生に教えられた生徒は有名人を含め、数え切れない程いると思いますが、その中で三十年ぶりに会ったのに『じろりん』の事を覚えていて下さって涙が出る程、嬉しく思いました。
その年の秋には『真帆志ぶき』さんの店の二十周年で、また先生と再会したのです。宝塚から先生のレッスンを受けに来られている『萬（ばん）あきら』さんと、ご一緒でした。その時先生に「今、（インターネットの）ミクシーで先生のコミュニティーを作っているのですよ。」と言ったら、「知っているわよ。何かあるとジローに言えばいいのね。」と喜んで下さいました。多分、先生の知り合いが、このコミュニティーサイトを見つけられたのでしょうね。
そして、「ジローに渡したい物があるのよ。」と言われました。「何かな？」と思っていたら後日、先生のサイン入りの新刊書が自宅に届いたのです。
その後、当時の仲間数人と会って飲む機会があり、その事を先生に報告すると、「今度は、ウチでやりましょうよ。」と言って下さいました。
そして、今年七月始め、先生の自宅へ招待して頂いたのです。この日集まった仲間は初期の頃のレッスン生で、今では宝塚始めミュージカルの振り付けをしている人や、劇団四季の俳優になっている人、ダンススタジオを経営している人、現役のダンサーなどで、それぞれ活躍している人たちばかりでした。
懐かしい自宅のレッスン・スタジオがゲストルームとして劇的リフォームされていました。一人一品の持ち寄りパーティでしたが飲み物も食べ物も先生が十分用意して下さっておりました。
こんな、『じろりん』・・・先生に相当にアホな事を言いました。「先生、いつか紅白歌合戦に出たいのですけれど・・・。」と言うと、先生は大真面目に「大丈夫よ。きっと出られるわよ。思い続けなさい。思い続けなきゃ駄目よ。思い続けたら、きっと出られるわよ。」と仰って下さり、何か大きなパワーを貰った気がしました。
懐かしくて嬉しくて携帯で写真を撮りまくりました。家に帰ってから改めて写真を見ると、みんな神妙な顔で、ちょっと緊張して先生の話を聞いている姿が写っています。ところが、『じろりん』は、そんな空気が読めなかったのか調子に乗りすぎて先生とハグまでして写真を撮っていました。
帰り際に仲間の一人が、「先生は、私たちには厳しかったけど、最近シニアクラスの人には、とても優しいのよね・・・。」と言われるのです。その時は言っている意味がよく分からなかったのですが、後で、それは『じろりん』の事だと悟ったのでありました。